育つ

「しょうちゃん、待って」
あゆこがビニール袋をシャカシャカと鳴らしながら走り寄ってくる。
「あゆこの歩くのが遅い。待たない」
 オレはわざと、少し早足になる。
「待ってって、しょうちゃん! 」
 あゆこが大きな声を出したせいで、道行く人が何人か振り向いた。
「うるせ……。叫ぶな」
やっと追いついてきたあゆこが、はあはあ肩で息をしながら唇をとがらせた。
「なんであゆこがしょうちゃんのジュース持たされてるの! 自分のは自分で持って」
 あゆこはプンスカ怒りながら、ビニール袋をおれに差し出した。
「おつかいなんだから、オレのジュースしか入ってないわけじゃないだろ」
 オレは両手を後ろに回した。ぜったい持ちたくない。
「しょうちゃんのコーラが一番重いの! 」
 あゆこはコーラだけ取り出して、おれにペットボトルを渡した。
 おれはこの、二つ年下のいとこが苦手だ。小学四年になって、ますます生意気になってきた。
 母方のいとこのあゆこは、家も近所なのでよくおばちゃんと一緒に遊びに来て、ケンカしながらもしょっちゅうオレに着いてまわる。
 オレはもう高学年だから、女なんかと遊びたくないので、ひたすら逃げ回っている。
 あゆこがあまりにもしつこいので、しぶしぶコーラを受け取って、歩きだした。
 コンビニからうちのマンションまでは、徒歩5分だ。
「あ。しょうちゃん、もうコーラ飲んでるの。いけないんだ、食べ歩き」
「飲み歩きだろ」
「いけないんだー」
「うるせ」
 本当に女子は細かいことにうるさい。
 そうじの仕方が悪いだの、班活動に協力しないだの、発表でも役に立たないだの……。言いたい放題言ってくれる。
 なのでオレは、女子が大きらいだ。一生結婚もしないと決めている。女子は女子だけの国へ行って欲しい。
なんだかんだと言い合いながら歩いているうちに、マンションのエレベーターホールにたどり着いた。
「しょうちゃん」
「あんだよ」
 オレはペットボトルをくわえたまま、上がるボタンを押した。
「あゆこがコーラを飲めるようになったら、一緒に遊んでくれる?」
「遊ばない」
 オレは即座に答えた。そんな約束、する気もない。
「あゆこが六年生になったら、遊んでくれる」
「遊ばない」
その頃、オレはもう中2だ。なんで小六の女子と遊ばなきゃいけないんだ。
「あゆこが任天堂Wii買ってもらったら、遊んでくれる?」
「遊んでやる」
 エレベーターが「チン」と鳴って下りて来た。
 先に乗り込んだあゆこは、やたらと満足げだ。
「しょうちゃん、あとでいいもの見せてあげる。だからこの袋も持って」
 おつかいのビニール袋を差し出されて、ついおれは「いいものってなんだよ」と言いながらも、それをなんとなく受け取ってしまった。
 エレベーターはずんずん昇る。
 十二階までは、ものの七秒だ。
 もしかすると。ひょっとすると。
 これくらい早いスピードで、オレとあゆこも成長していくんじゃないか。
 そんな風に考えると、何故か体がむずむずしてしまい、今すぐエレベーターを飛び降りたくなった。
 けれど、エレベーターはどんどん昇る。
残り少なくなったコーラのペットボトルをブラブラともてあまし、あゆこの満足そうな横顔を見ていると、(いいものってなんだろう……)と、もう一度思った。
(了)